2014年2月15日土曜日

モンスター

妖怪ペシン。
そんなもののけが、ここ綾瀬に出没するという。コンノさんがなぜか女性と住むことになり、五人で住んでいる一軒家から退去することになった。引っ越しを手伝って欲しい旨を他の同居人に告げ、マスオカ、富井、中野くんは引き受けることになった。
当日、永山から車を借りて積み込み作業をしようとするも、マスオカと富井は気が乗らずやらないでいた。彼らは特にバイトや用事があったわけではない。あらゆるイベントを、かなりの割合でサボって生きているのである。女性に関しては無論、一夜限りの行為はあろうとも彼女など願い下げである。連絡先を交換せぬ。そうか逆にそうすればええんか、状態である。例えば風俗嬢とアフターする場合、場所と時間だけで待ち合わせる。彼ら彼女らの行っても行かなくても何も変わらないラフさによる性交の成功は、SNSや携帯を全否定することにより生成される時代の捻れから生まれていた。孤独を愛するのにルームシェアしているという矛盾を孕みながらも、サボっていたのはそんな、彼女と出て行くことにより関係を単純化するコンノに対する対抗意識からかもしれない。
中野はそんな彼らを「無責任な奴らなり。一回やるって言ったんだから俺は手伝うなり」と、永山の車を一人で運転していた。コンビニに寄り、駐車場から車を出す際、コの字型のよく中学の頃に座っていたオレンジのやつに当てた気がした。振動や音から、それは気のせいで無い確率が高いが、中野は現実から目を逸らし、一途に前を見て何事もなかったように一軒家に戻った。
マスオカと富井は車が戻ってきた様子の雑音の後、聞きなれぬ、ペシン、ペシン、ペシンと、繰り返される妙な音を聞いた。怖いなー、何かなーと、音源を辿り玄関に出ると、車のトランク部分が完全にへしゃげたのを見た中野が、何度もおでこを叩いていた。
妖怪ペシンの正体は、自らのひたいをひたすら叩き続けていた中野であったのだ。
コンノさんはその後別れて戻ってきた。

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