2014年12月28日日曜日

恋愛睡眠のすすめ(2006)

自分の編集をしていて更新できなかった。
更に誘いもいくつか断ってしまった。現代美術館のミシェル・ゴンドリー監督のイベントに誘われたが、手が離せず行けなかったのだった。
ミシェル・ゴンドリーは、フランス出身で、映像の進化を一人で何年も進めた巨匠PV監督、及び中堅映画監督。
親がミュージシャンで、おじいちゃんがビートルズも使った実験音楽系楽器を発明したこともある発明家の、芸術エリートの家出身。
全盛期の本人出演のヒューレットパッカードのCMで、アメリカでのポジションがわかる。まぁ英語なのであんまわからんが『パソコンとアナログを行き来する男』というCMだろう。あと青い文字からようつべへ飛べます。

20代までは自分のバンドのPVを撮影していただけだったが、その映像でビョークに見初められる。
メジャーデビューは、ロシアアニメ・霧につつまれたハリネズミ(1975、ユーリ・ノルシュテイン監督)からインスパイアされた、ビョークのPV、ヒューマン・ビヘイヴィアー(1993)。
個人的に好きなPVは、スパイク・ジョーンズが監督したファーサイドのドロップ(1996)の逆回転映像に対抗したチボマットのシュガーウォーター(1996)(この際の『スローテンポの女ボーカルを画面分割で撮る』方法を、15年キャリアを積んだ後に撮り直したのがリヴィング・シスターズのハウアーユードゥーイング?
そして幼少期になぜか四国で見てトラウマ、ビョークのアーミーオブミー(1995)。

また、玄人向けに、映像のことを知っている人向けに作っているのが、
『モーションコントロールカメラ』を使って、カメラに何度も同じ動きをさせて合成させている、カイリー・ミノーグのカムイントゥマイワールド(2002)や、PVあるあるをパロディ化したような、アフターエフェクトのレイヤーを実写で撮ってみた、ケミカルブラザーズのレットフォーエバービー(1999)、その『わざわざ実写でやる』ことと商品の『高性能さ』のギャップの面白さを使って、携帯本体の中に人間が取り込まれるモトローラのCM

スミノフのCMでは、マシンガン撮影をマトリックス(1999)より前に使っている。
更に、日本人アラサーは長野五輪の際にゴンドリーのコカコーラのCMを腐るほど見ており、五輪はマトリックスの一年前であるので、マトリックスのマシンガンショットに驚かなかったかもしれない。

また、日本人監督で撮られた中では今年一番有名なPV、OK Goのアイウォントレッチューダウン(2014、関和亮監督、ダミアン・クーラッシュ監督)までも、それ以前にゴンドリーが似た映像を撮っていた。ボーカルのダミアン・クーラッシュは、「はじめはゴンドリーにPVを撮ってもらおうと、近いことをして気を引こうとしていた」というインタビューから、このゲイリー・ジュールスのマッドワールド(2001)を見てない訳がないのであった(ゴンドリーのGAPのCMにも似ている)。

一番有名なのは、元バンドのドラムであることを活かしたケミカルブラザーズのスターギター(2002)だが、これは一度もピンときたことない。
しかし、ゴンドリー展に行けなかった代わりに久々見返した映画「恋愛睡眠のすすめ」に、ピンときてしまったのだった。

今作、恋愛睡眠のすすめはゴンドリーが監督したフィクション8作品のうちの3作目。新作レンタルで並んでいた当時観て「これは失敗作で、一生見るこたねーだろ」と思っていたが、時を経て主人公の気持ちがわかる年齢になってしまったのだった。ちなみに予告詐欺がすごく、本編は非常にわかりにくい、ハテナばかりの内容である。

ゴンドリーの映画一覧

ヒューマン・ネイチュア(2001)
PV監督仲間であるスパイク・ジョーンズと、脚本家チャーリー・カウフマンの、マルコビッチの穴(1999)コンビの膳立てでコメディ映画監督デビューしたが、いきなしつまずく。

マルコビッチ映画化以前、放送作家のチャーリー・カウフマンは名前を売るため、あえて映像化不可能なマルコビッチの穴の脚本をハリウッドに流布、予想通り放置されていたが、スパイク・ジョーンズがコッポラ(ゴッドファーザー・1972・他)の娘、ソフィアと結婚したことにより、義父コッポラがジョン・マルコビッチを説得してくれ、映像化できないことの主な要因だった『ジョン・マルコビッチの出演』をゲットするのだった。そしてマルコビッチの穴は最高の状態で完成し、スパイク・ジョーンズとチャーリー・カウフマンは監督・脚本でそれぞれアカデミー賞にノミネート。

しかし二人の次作であるヒューマン・ネイチュアでは、なぜか監督をゴンドリーに譲り、スパイク・ジョーンズはプロデュースにまわる。失敗して一発屋になるのを恐れたのだろうか。

内容は、ショーシャンクの空に(1994)のティム・ロビンス演じる、助成金でモルモットにマナーを教える中年童貞の男小保方と、ノッティングヒルの恋人(1999)の野生児同居人、リス・エヴァンス演じる、きちがいに森で育てられた教育を受けてない、自分を類人猿だと思っていた青年と、ゴンドリーとはローリング・ストーンズのライク・ア・ローリングストーン(1995)カバーでも共作したことのあるパトリシア・アークエット演じる、インテリだがホルモン異常により世界一毛深いメンヘラの、三人の間で起きた殺人事件を、死後の世界を交えながら振り返ってゆく話。インテリギャグ満載。コメディではない体で進むのが面白いのだが、研究室のフランス女子もどきの助手が出張るあたりから、「ふたりの男とひとりの女」(2000)のファレリー兄弟の作風のようなコメディよりに。
結果、それはマルコビッチで感じられるような、好奇心を刺激する哲学要素が少ない、ただのコント色の強いインテリ笑いの映画になってしまい、大赤字になったのだった。

そもそも、スパイク・ジョーンズはアメリカの電波少年、ジャッカス(2000~)の大元のリーダーで、一般人に迷惑をかける捨て身の出演もしているような、笑いに魂を売った人間であって、根本的に笑いに対する考え方が、ゴンドリーとは違ったのではないか。

つまり、ゴンドリーは実はコメディとは相性が悪いのかもしれない。
ただ少なくとも自分にとっては、たまに無性に観たくなる無害で神経をゆるくしてくれる映画である。類人猿が初めて都会の強風のビル街を歩く印象的なシーンは、たまたまロケ地で強風が吹いていただけという、現場のアクシデントを積極的に取り入れる、きっちりとしたスパイク・ジョーンズとは違う柔軟なスタイルは、後々個性的な長所となっていく。

エターナル・サンシャイン(2004)
何度も見返す自分のスタンダードナンバー映画の一つである。カウフマンとスパイク・ジョーンズコンビは、ヒューマン・ネイチュアの次に、マルコビッチの穴からの派生作品と言えるアダプテーション(2002)で、更に心理と創作の内部へと入る道を進む。
一方ゴンドリー、「元彼女の記憶を消したいんだ」という、どうでもいい話をクリエイター友達から聞いた天然パーマは、「恋愛の記憶を消す話」を映画化することをカウフマンに提案。二人で平凡なアイデアを何百倍にも膨らませ、アンチハリウッド脚本を創作。仕事として記憶を消す博士たちと、脳内で消すことを思い留まり、二人で色々な記憶に逃げていく元カップルの冒険と成長という、破天荒なシナリオを作り上げる。カウフマンが扱ってきた「脳」というテーマに、最も普遍的な「恋愛」というテーマをかけ合わせるとどうなるか。監督2作目にしてとんでもない映画が生まれた。構成に多数のサプライズを仕掛けながらも、仕掛けが目立たないほど映画自体が面白すぎるというサプライズになってしまったのだった。
そして二人で、否、なぜかはじめの発言をした友達と三人でアカデミー脚本賞受賞。
この、少なくとも年内最高の脚本という設計図を元に、建設される演技と映像が、誰が監督しても佳作にはなっていたであろう作品を、更に強固に唯一無二なものにした。

まずその演技をさせるキャスティングがすばらしい。
主演のジム・キャリーには徹底的にコメディキャラを殺させて、奥手な男を普段通りに演じさせた。始めはジム・キャリーも現場でコメディ要素を出していたが、その場合はカメラを止めたのでジム・キャリーを怒らせたとのこと。『ジム・キャリーが「こういう演技もできるんですよ」というアピールをしたいだけ』と受け取っているレビューもあるが、完全に演出によるものである。
相手役にケイト・ウィンスレット、タイタニックガールにはアウトサイダーでよーしゃべる本屋勤務のメンヘラを演じさせた。髪色がどんどん変わるのは、過去と現在を表すのに少しでもわかりやすくするためだが、その配慮が、結果映画のアイコンになった。
記憶を消す会社の従業員にキルスティン・ダンスト、ラストの車の前の会話の表情を見るだけで、なぜか毎回涙が出ちまう。ジュマンジ(1995)やインタビュー・ウィズ・ヴァンパイア(1994)にもメイン子役で出ているほど長いキャリアの中でも、最も自由度が高い撮影だったとのこと(2011年のインタビュー)。それは、特に主人公宅で勝手に飲酒しているときに活かされる。ヒロイン以上にメンヘラ役だが、撮影から4年後、アル中と鬱病で入院することになり演技じゃなかったことが発覚。今年のiCloudセレブ自撮りヌード流出事件では、他のセレブが「これは合成」と必死な中、胸の自撮りを2、3枚世に送り出した後、「thank you iCloud(うんこの絵文字)」とツイートして主人公に。
博士トム・ウィルキンソンはイギリスの大物、ミッションインポッシブル4(2011)の長官など。非イケメン従業員マーク・ラファロは当時は無名、後に、エドワード・ノートンが演じたインクレディブル・ハルク(2008)を引き継いで演技力のみでアベンジャーズ(2012)に入る。チャラい従業員イライジャ・ウッドは、ロードオブザリング3部作(2001〜2003)終了直後の出演。この役の強烈なバカ加減で演技派の印象を残したが、ハマりすぎて本当にバカと思われたのか、普通にバカなのか、その後唯一ぱっとせず。

続いて映像である。CGも使用しているが、SFにも関わらずゴンドリーにしかできないアナログな手法が目立つ。
特に『体が子供になって机の下にもぐる主人公と、大人のままの体のヒロイン』が会話するシーン。普通は主人公をブルーバック撮影して合成するだろうが、あえて遠近法で撮っていて、大きな机のセットに190ぐらいあるジム・キャリーが入って遠くからヒロインと会話しており、笑う犬のコント「テリーとドリー」方式で体を小さく見せている。これがまぁまぁ失敗しているが、この失敗加減が、映画を暖かいもの、ドヤ感を消すのに貢献している。Neverまとめでは「完璧主義の映像作家」と題されているが、それは「PVで音と映像がシンクロしている」というだけであり、撮影はわざと荒削りな感じにして、それが作家性を強めている。
構図に関してはアップばかりで、異常なまでに手持ち撮影を使用し、まるでバラエティの撮影ようである。手持ちに関しては、「これは合成ではないですよ」というアピールもあるかもしれないが、そもそも失敗しているので、そのアピールにドヤ感が無い。暗い脳内シーンでは暗い場所で撮ったAVのように、カメラが動いたら照明も動くという、職人がキレることばかり行っている。
CGを使っている箇所で印象に残るのは、博士たちが元彼女との記憶を消す作業時、巻き添えでどんどんエキストラが消される中を二人が逃げてゆくシーン。似たシーンはマルコビッチの穴にもあるが、同じ脚本家の同じシーンでも、監督が違うとこうも違うという、発見もある。
また、予告でも流れる、象の路上パレードを主人公たちが見ているシーンは、前作のアドリブ強風シーンのように、たまたまロケ地近くでパレードをしていたので撮影している。

脚本のカウフマンはエターナルの前に、ハリウッドの中心人物、ジョージ・クルーニーに依頼されたコンフェッション(2002)で唯一の企画ものを執筆。エターナルの後は、脳内ニューヨーク(2008)で初監督・脚本。以降の脚本はポシャってばかりである。

俺のようなファンが多いエターナル・サンシャイン、ゴンドリーは「なぜこのタイプの作品を作り続けないのかと、よく非難される」とのこと。

恋愛睡眠のすすめ(2006)
後述。

TOKYO!~インテリア・デザイン(2008)
自主映画監督の上京物語。日本で撮られたTOKYO!の3作品の中の一篇。スティーブン・セガールの娘で、庵野秀明の実写作品、式日(2000)でヒロインと原作をつとめた藤谷文子が主演、相手役を加瀬亮、当時加瀬バーターの伊藤歩も出演。

新作で出て以来見てなかったので見返そうとしたが、なんかしらんがむかついて見れなかった。知り合いでも何でもないが、ゴンドリーの箱庭の中に加瀬亮とかが居るのがすごい変な気持ちになったのだった。映像・CGはもちろんすばらしい。
ちな、ポラロイドのゴンドリーのCMは日本で撮ってると見せかけて香港。

『箱庭』というのは狭い箱にいかに色々な自分趣味の物を詰めるかというニュアンスだが、レディオヘッドのナイブズアウト(2001)は、まさにその真骨頂である。
そしてその箱庭の中にトム・ヨークが居るのも、なんかしらんが気持ち悪いのであった。知り合いでも何でもないが。

僕らのミライへ逆回転(2008)

レンタルビデオ店のビデオを、店員の友達が電磁波で消してしまい、ロイヤル・テネンバウムズ(2001)の黒人・ダニー・グロヴァー演じる店長に怒られないよう、自分たちでリメイクし、それが話題になり客が殺到。
何とも嫌いな作品。ガチ駄作だと思うが、現代美術館の展示は基本これをテーマにしており、むしろ手作り映画リメイクはゴンドリーが本当にやりたい事の一つのようである。ゴンドリーがトラビスを演じるタクシードライバーリメイクも、2011年に遊びで撮っている。

グリーン・ホーネット(2011)
ダメ二代目新聞社社長と父の使用人・加藤が、素性を隠してヒーローに。経歴の中で一番安心して見れて、世で一番見られているであろう作品。3D版も公開。

昔のテレビドラマリメイクで、元ドラマはかなり有名だったようだ。キル・ビル(2003)でも、ドラマのテーマ曲が使われ、衣装もパロられている。
中国人キャストがメイン(テレビ版ではブルース・リー)に居ることから、少林サッカー(2001)のチャウ・シンチーのハリウッド俳優・監督デビュー作として準備されるも、降板後、なぜかゴンドリーに回った仕事。外国人ということ以外キャラ違いすぎるだろ。チャウ・シンチーは、おそらく主演のセス・ローゲンが脚本・プロデュースにも居ることから、主導権がどっちになるのかイライラで嫌になったと思われる。

セス・ローゲンは北朝鮮を怒らせてソニーをハッキングさせた、金正恩暗殺コメディ、ザ・インタビュー(2014)でも制作・出演、更に共同監督・原案。ザ・インタビューの共同監督のもう一人はグリーン・ホーネットの脚本家。そして、ザ・インタビュー主演のジェームズ・フランコもグリーン・ホーネットに半グレ役でカメオ出演。つまりグリーン・ホーネットは、後にザ・インタビュー製作陣になるおもしろ軍団による映画であり、ゴンドリーは、単に雇われた監督。
この映画でしか見たことない撮り方不明な『分割画面が増殖してゆく長回し』はすごいが、『手作り感』や『荒さ』という作家性は封印して、監督仕事に徹している。制作費100億円の本格的なハリウッドデビュー作となったが、絶賛雲隠れ中のセス・ローゲンとの間に友情も生まれず、賭けに負けてしまったようだ。

ターミネーター2の子役、エドワード・ファーロングが麻薬ラボの頭で出演。ヒロインはマルコビッチでスパイク・ジョーンズらと繋がっているキャメロン・ディアス。なお、赤字ではない。

ウィ・アンド・アイ(2012)

干されたゴンドリーが小さい規模で撮った、ニューヨークの下町の通学バス内での会話をひたすら映す作品。人間観察力もあるぜということをアピールした脚本。ディカプリオとトビー・マグワイア主演の自主映画「あのころ僕らは」(1995)を思い出した。会話の途中でちょくちょく挟まれる、荒くも個性的なイメージショットで個性発揮。完全にプレッシャーから解放された撮影が楽なやーつ。演技未経験者を起用して、ビデオで撮ることでリアルに仕上がった。最もパーソナル(個人的)な映画と宣伝しているが、恋愛睡眠の方がパーソナルだと思われ。

ムード・インディゴ うたかたの日々(2013) 
ボンボンの主人公に彼女ができるが、彼女の肺に蓮のつぼみが入ってしまい『蓮が体内で成長してしまう』という難病にかかる。蓮の成長を妨げるため、彼女の周りに花を置かなければならないということで、花代と薬代のため働き始めるが、病気は回復せず。

原作は1950年代に活躍したボリス・ヴィアンの「日々の泡」。同じ原作の日本版はクロエ(2001)。恋愛睡眠のすすめ以来のフランス映画。いよいよ都落ちか。
物語前半は、今までの集大成とばかりに派手な手作り感を全開で出してきて、すごいけど目が疲れる。だが後半になると、画面の色もどんどんと褪せていき、最後はモノクロ。前半の過剰な楽しさは、後半、観客をより落ち込ませるための仕掛けであった。
ジャズ演奏者でもある原作者が尊敬していたデューク・エリントン楽団のすばらしすぎるジャズ「A列車で行こう」の明るさも、この壮大な前半のフリに使われている。

CGなしの手作りの感覚はステリオグラムのウォーキー・トーキー・マン(2004)の感覚を再使用か。

アクの強すぎる未体験の世界観の中では、おそらく話を紡ぐ気は無く、いかに変わったことをするか、いかに美しいものを見せるかにだけ力が注がれている。これは原作が本国で桃太郎ぐらい有名な話だからだと思う。
トーマス・アルフレッドソン監督のイギリス映画・裏切りのサーカス(2011)も、ヨーロッパでは大ヒットのくせに役者と映像があほかっこいいだけで話が全然わからない。これも、イギリスでは原作が金太郎ぐらい有名な話だから、今更ストーリーを説明する気が無いのだろう。

最強のふたり(2011)の介護人役の黒人芸人、オマール・シーが、ここでも主人公の使用人役で好演。衣装も素敵で、前半を見ただけで青スーツジャケットを買っちまった。一万六千もした。

そして恋愛睡眠のすすめ。特に『主人公は何がしたいのか?』ということについて。

まずはキャスト、主人公ステファンにガエル・ガルシア・ベルナル。メキシコ人のため170ぐらいなのにイケメンスターとしてアモーレス・ペロス(2000)で22歳の時に衝撃的メジャーデビュー。油の乗った現在は政治に没頭してらっしゃる様子。アモーレス・ペロスの監督、アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥは同郷の同年代であるアルフォンソ・キュアロンの、ゼロ・グラビティ(2013)の成功がよほど悔しかったのか、今年、初のコメディであるバードマン(2014)を監督。かなり高評価で日本公開が待たれる。

ヒロインにシャルロット・ゲンズブール。業界人とフランス大物女優の間の娘で子役出身。自身もフランスの監督と結婚するが、夫の代表作は残念ながら「僕の妻はシャルロット・ゲンズブール」(2001)であって、七光りの七光りという、うらやましすぎる夫を持つ。

歯並びが悪いのか、整っている訳ではないが素敵な顔。

今年ニンフォマニアック(2013・日本は2014)で突然全力ポルノの世界へ。ニンフォマニアックはダンサー・イン・ザ・ダーク(2000)のラース・フォン・トリアー監督の、アンチクライスト(2009)、メランコリア(2011)から続く鬱三部作の締めとして作られたが、この三作ではすべて主役か準主役で出演しており、鬱になった天才監督を引き締めるミューズとして近年再び注目を浴びるようにになった。ビョークやドッグヴィル(2003)のニコール・キッドマンなど、出演女優に基本嫌われる中でもかまってあげる、めっちゃ良い女である。ニンフォマニアックのエンディング曲でジミヘンのHey Joeをカバーしたが、今年一番好きな曲かもしれない。

そして脚本。ゴンドリーは英語がわかりきってないのもあるのか、基本的に脚本は共同で書いており、一人で脚本を書いた作品は、今作と僕らのミライへ逆回転だけになる。今作には起承転結的なものがなく、『小道具フェチの監督が手作りの小道具たちを見せたいがために、小道具に合わせた脚本を書いた』と、思う人も居るだろう。おそらくそれで正解だが、今一度見ると、違うものも見えてくるかもしれない。こないかもしれない。

そしてストーリー全力ネタバレである。

『ステファンスタジオ』という、段ボールで作られた手作りのスタジオで、自分の番組のMCをする主人公ステファン。夢の作り方を料理番組のように説明する。題名からしてこれは夢である。「自分を起こさないように小さな声で、、、父さんだ。元気な姿を見れてうれしい。僕らはコンサートに来てるんだ」大理石のマーブル模様の形に、絵の具が広がってゆくイメージショット「父さんは死んだんだ。ガンに侵されて」。次段落から、始めに、現実か・夢か・妄想かを書き加える。

(現実)スケッチブック片手に、かわいいニット帽でフランスにやってきたメキシコ人青年ステファン。父が死に、離婚した母がオーナーをしているアパートへ入居。その部屋は子供時代に住んでいたようで、子供の頃の発明や、昔集めた廃材(トイレットペーパーの芯、飴のセロハン、ペットボトルキャップ、松ぼっくりなど)が残されている。絵も描いており、幼少期からとにかくクリエイティブなことをしたいと。それで母から、カレンダーの絵柄を書く仕事ができると聞いて、パリへやってきた。

カレンダー会社の従業員は、よーしゃべる下ネタばっかのおっさん、熟女、ナヨナヨした天パ、堅物社長。仕事を教えられるが、それはイラストレーターではなく、写植、アナログ印刷機に、印刷する文字の型を入れる仕事だった。話が違うとテンパり、慰安旅行のスキーに誘われるも断る。
社長にスケッチブックを見せるステファン。ひと月ごとに世界の飛行機事故や地震の悲惨な絵が描かれた、『災害論』と名付けられたカレンダー用のイラスト。「ここは南アメリカじゃないぞ」社長からは一蹴される。

帰宅し、上手く剃れない電気シェーバーを投げ、布団に入るステファン。

(夢)夢での社内風景。明らか作り物の、大きくなった手で仕事をする苦しい顔のステファン。大きな手で下ネタおっさんと天パをはたき、社長室に入ると、熟女と社長が抱き合っていた。「メキシコは南アメリカじゃない!」ポケットから電気シェーバーを出すと、シェーバーから虫のような足が生え、社長に近づき、襲う。シェーバーが顔周りを通ると、逆に大量にヒゲが生える。「出てけ」ステファンの指示通り、社長は窓から飛び降り、ペーパークラフトの街でヒゲボーボーのホームレスになる。熟女とはコピー機の左右の動きを使ってセックス。自分も窓から飛び降りると、無重力になっており、空を飛び回る。

(現実)目覚ましと電話が鳴る。母からの電話であった。

(現実と妄想)妄想のステファンスタジオと現実が入り乱れながら電話「コケにしてるのか?どこがクリエイティブな仕事だよ。母さんは嘘をついたんだ。僕をパリに呼ぶために」。妄想側に母が出てきて、子供の頃の両親を回想しつつ二度寝。

(現実)寝起きで壁が振動。隣に入居してきた住人たちがロフトを取り付けるための工事をしていた。
窓の外には隣室の入居者になるヒロイン、ステファニー。正面から来た通行人とぶつかりそうになり、よけ合っている。

(夢)ステファンスタジオ、「脳のおもしろい現象。パラレルシンクロナイズドランダムネス。数学理論では、二人は永遠に避け続けるんだ」講義するステファン。

(現実)共用階段に出ると、引っ越し屋が運んでいるピアノが落下、ステファンは手を痛める。
ステファニー宅でステファニーの友達、ゾーイに手当てをしてもらう「ステファンとステファニー、まるで双子みたいね。彼女フリーよ」。発明品、実際にはありえない3Dメガネを紹介するステファン「発明家になりたいんだ」。ステファニーとゾーイは『アリストテレス』という音楽レーベルのクリエイティブディレクターであると言われる。「アリとタートルです?」。

下ネタおっさんとベンチで昼休憩するステファン「こんな最低な仕事初めてだ」「楽しいこともあるからそうぼやくな」。仲良くなり恋愛相談するステファン「僕の隣に住んでる子の友達がかわいい。多分、友達じゃなく、隣の子が僕に気がある。いつもうまくいかない」「じゃぁパリに居ろよ」。

家に帰るとエントランスでステファニーとかち合う。「ゾーイに会いにきた?」なぜか隣人ステファニーに、隣に住んでいることを言い出せないステファン。そのままステファニー宅に訪問。

部屋は手芸の人形などであふれている。「この子はゴールデン・ザ・ポニーボーイ。お店で見つけて衝動買いしたの。一生手放さない」。ステファンの手当てをするステファニー。手をあわせ、「こうすると、手の感覚が無くなる」と、体の錯覚を使って遊ぶふたり。めちゃくちゃいい感じになる。「手が大きいね、ポコチンも大きいの?」いきなり意図不明なシモを放り込むステファン。非常にコミュニケーション力の無い男である。
制作途中の船の手芸を出すステファニー。この船をどう改造していこうと話し、写真を使って船のコマ撮りアニメを撮ることを目標にする。
水はどうやって表現しようと、水道をひねると、蛇口からはセロファンが出てくる「セロファン!」「母が飴の包みを集めてるから、そのセロファンを使おう、ロシアのアニメみたいに。ペーパークラフトが趣味だけど、いつも完成しない」明らか自分のことであるがなぜか母のせいにするステファン。

綿を放り投げるステファニー「雲よ」。ピアノを鳴らすステファン「ダメだ。もう一度。コードが違う」。改めて綿を放ると、今度は綿が空中で雲のように止まる「これだ!共振周波数にはまるように、タイミングよく弾けばいいんだ」。3Dメガネの発明のように、実際にはありえない現象が起こる世界観の映画である。

(現実と妄想)部屋の風呂でぼーっとしていると、熟女に痴女られる。睡眠に導入されるカットはなく、ステファンの妄想である「やめてくれ。罪の意識に耐えられない」。浴槽の外は社長室、窓の外には『アリとタートル社』の看板が回っている。ステファニーに手紙を書くステファン、『僕の隣の部屋に住む君へ。君に嘘をついてしまった。とても後悔している。僕はただの隣人で嘘つき。ところでゾーイの電話番号は?』裸で部屋から出て、手紙を隣室のドアの下に入れる。
(現実)浴槽で現実に戻るステファン。いつの間にか寝ていた。浴槽の脇には自分の濡れた足跡が。辿ると、隣の部屋まで続いている。妄想だけでなく、夢遊病のように実際にステファニー宅に手紙を差し入れていた。「嘘だろ?まずい」ハンガーでドアの下から手紙を出すステファン。今度は詩的なわかりにくい手紙をタイプ。
(妄想)洞窟で、大きなタイプライターを虫の足が弾いている。

(現実)会社では「これからは遅刻も欠勤と見なすべきだ」とあきれられている。

(夢)『アリとタートル社』のある街を浮遊しているステファン。窓から会社に入る「二人は音楽ディレクターなんかじゃなかったんだ」「仕事よ」「夢だから仕事なんてしなくてもいいんだ。君たちは僕の脳内現象にすぎないんだ」。

(現実)個人経営の画材屋で働くステファニーとゾーイ。実はステファニーは昨晩、夜中に目が覚めるとドアに気配があり、裸のステファンが共用廊下に居て、手紙を入れて隣室に戻るのをドアスコープから目撃、手紙を読んで、読んでないフリをして戻していた。

ステファニー宅でタウンページを使い、隣室ステファンの番号を調べて、部屋に呼ぶ。「急げば15分で行ける」男に嘘をつかせておちょくる女二人。テレパシーの発明品をステファン宅で試すステファン、ステファニー、ゾーイ。

三人で騒がしい立ち飲み屋に行くと、ちょうど同僚の下ネタおじさんが「ゾーイ?あんたかわいいと噂になってるよ」。下ネタおじさんと、彼氏ありだが奔放なゾーイはいい感じ。ステファニーのために曲を作ったと楽譜を渡すステファン。おじさんから「彼女は気があるんだろ?弄ぶな」と言われるも「ただの隣人。彼女はすごく良い人だけど、うちの父さんに似てる」とステファン。酔いながらバンギャみたいな女と踊ってキスする。
自宅の壊れたピアノで楽譜を弾くステファニー。ステファンもバンギャは抱けず、自室でステファニーの名を呼びながら寝ている。

(夢)「お前はクビだ」と、同僚に抱えられて洞窟から連れ出される夢を見るステファン。
(現実)目覚めるが、二度寝するステファン。

(妄想)今度のステファンスタジオは、飯を食いながら考え事をしているステファンの見る脳内世界「今日のテーマは50歳からの恋愛。ゲストを二人お迎えしてます」。
(現実と妄想)母の新しい彼氏と晩飯「あなた今日会社を休んだそうね」「夢で一日中働いた」「6つのころから夢と現実の区別がつかないの。夢では手が大きくなるのよね?」夢のトリビアを披露する新しい彼氏「レム睡眠とは急速眼球運動。夢と目玉は連動している。夢で歩けば、目玉も歩く」。

(現実)目が動くと鳴る仕組みの目覚まし時計を作ってセットし、寝るステファン「目玉を動かせば解放されるんだ。夢の奴隷から」。
(夢)もちろん逆効果。相変わらず会社の同僚をおどす夢、窓から見えるペーパークラフトの山が噴火して、月が割れる「やめてくれ。ここは君の世界。僕たちは何でもする」「もう僕を奴隷みたいに働かせるな」破壊された町を念力で作り直すステファン「あなたの新世界を讃えます」「夢の中でステファニーに会いたいんだ」「ステファンさん、ご著書『僕はただの隣人で嘘つき。ところでゾーイの電話番号は?』が大ヒット。絵画、彫刻、建築、執筆。最近ではステファン美術館や財団を設立。成功の秘訣は何です?」「僕の作品がウケるのは心から生まれたから」「ステファニーのことね。実はサプライズ、彼女への歌」。同僚と着ぐるみのバンドを組みステファニーへ送る歌を演奏。ライブ映像が流れるステ
ファニー宅の段ボール製テレビ。「つまらない」ステファニーはチャンネルを回すもすべて社長室の演奏シーン。「もう疲れたから目を覚ますよ」。

(現実)夢の会社のドアを出ると、現実の玄関ドアにつながっていて共用廊下に。ステファニーとかちあう「ちょうど君に会いたいと思ったんだ。結婚してくれ。友達に紹介する」ドアを開けるも、同僚は居ない。「私は独身主義だし、あなたとは合わないと思う。気は確かなの?」「勘違いしてた。ここが会社で、仕事中に居眠りしたかと思ってたんだ」「大丈夫?本気じゃないのね?」「でも君が好きみたいだ」「私、恋人を作る気はないの」「ひどい人だな」「子供みたいなまねはやめてちょうだい」。
会社。失恋したと悟られて天パと熟女に慰められるステファン「みんな放っておいてくれ。一度にごちゃごちゃ言われると頭がおかしくなる。まるで自分が統合失、、、」現像室に逃げるステファン。追いかける下ネタおじさん「統合失調症って言いたかったんだろ?遅刻さえしなけりゃあいつらもからかわない」。

(夢)ステファニーの作った多数の手芸が置かれている洞窟、ベッドでまどろむステファニー。「ステファニー、この赤い毛布も展示会に出して良い?」「もちろんよ」「手を握って?眠れない」。

(現実)セロファンをステファニー宅に持って行くステファン。二人でアニメーションの背景を作る「もう少し左。でたらめにするのって難しいのよ。油断するとすぐに秩序正しくなっちゃう」。
新しい発明品、一秒タイムマシンを見せるステファン。本当に一秒間過去や未来に移動できる「こんなものもらえない。理由が無いから」「かわいいからじゃ、だめ?」。

(夢)布で作られたスキー場、ステファニーとリフトに乗っている。後ろのリフトには同僚。雪山の頂上でステファンに何度も小鳥キスするステファニー。雪山の地面が割れて現実へ。最もきれいに撮られている。

(現実)目覚めると足が冷凍庫に入っている。お湯で足をふやかし、ベランダ越しにステファニー宅に忍び込むステファン。人形、ゴールデン・ザ・ポニーボーイを持ち帰り、自宅で修理する。
(夢)気づくとステファンスタジオ。ステファンとステファニーが一緒に、楽しく人形を修理している。二人で『ステファニーが帰宅して、ポニーを見つけて喜ぶドラマ』を撮影する。「カット、ダメじゃないか、僕を褒め称えないと。もういいよ、どうせ恋に発展しない」「試す価値はあるんじゃない?」「今度会ったときにキスするとか?」「試してみて」。
(現実)修理が終わり、ステファニーの部屋にゴールデン・ザ・ポニーボーイを戻すステファン。そこにステファニーが帰ってくる「何してるの?」「本当にごめん」「信じられない。不法侵入よ。変態。さよなら」。

(現実か夢か不明)ステファンが寝ているベッドにステファニーから電話が「本当にありがとう、ポニーを直してくれて」ポニーは床に置くだけで走り回る。「ポニーの名前はあなたを見て決めたの。どうやって直したの?」「カオス理論を応用した。生命の単純化だ」「あなたの隣に住めてうれしい」「僕らが70になったら結婚して。それなら損はしない」「いいわ」「もうしばらく僕と話してくれる?きっと眠りながら話せると思うんだよ。今暗い穴に落ちて行ってる」「人が穴に落ちる瞬間は決して見られないわ。なぜなら境界を超えようとする人の姿はだんだん動きが鈍くなって、ある地点で全く動かなくなる。そこを超える瞬間は赤くなるだけ」「超えたよ。超えた」ステファンの口は動いてないが、ステファ
ニーの電話口ではステファンの声が聞こえる。
(夢)「そこで何が見える?」。草原で電話するステファン。草原には馬、川、一秒タイムマシン。
(現実)寝ているステファン「ステファン?眠ったの?」。

(現実か妄想か不明)立ち飲み屋でステファニーを母に紹介するステファン。「本当に優しそうな人ね、カレンダーはどう?」「素敵です」。ステファンの『災害論』が会社の大ヒット商品となり、パーティを開いている「被害者に感謝を捧げます。彼らが居なければ作品は生まれなかった」。
ステファニーの手を握ろうとするも拒否られるステファン。その場で会った男と楽しそうに話すステファニー。
(妄想)それをステファンスタジオで見るステファン。スタジオにはステファニーも居る「ごめんなさい。怒った?」。
(現実)ビールサーバーからビールを直飲みするステファン。

(夢)昼間の安ホテルで揉めているステファンとステファニー、劇中劇風。ステファニーはフランス女優のように金髪になっている。「彼女は僕の心を引き裂いた。僕は捨てられる。僕が安っぽいドラッグの売人だから。捨てられるために売人になったのだ。警察が来た」窓の外では段ボールのパトカーから母の彼氏演じる警察が出てくる。部屋に迫る警察。窓から逃げるステファン。路駐している段ボールの車を盗み、逃げるが、事故る。車からホテルの窓を見ると、新しい男とステファニーが死に行くステファンを見下ろしている「彼は僕とは正反対。包容力がある。彼女は夢中」。
(現実か妄想か不明)ベッドから落ちるステファン。介抱するステファニー。「私たちきっとうまくいく。もう私の愛を疑わないで。電話して」。

(現実)目覚めるステファン。パリの街を歩き、休日の下ネタおじさんに会いに行く。「ひどいよ。僕が好きになったとたん冷たくなった。寂しそうな彼女を救いたかったのに」「傷つきたくないから、人を傷つけるのかもよ」「僕が彼女を好きなのは、手でモノを作るからだ。父さんに相談できたらな」テレビではデモのニュース。「捨てに行こう。テレビは人を洗脳する」テレビを抱えてパリの街を歩き、橋から投げる下ネタおじさん。近所のばばあに「川にゴミを捨てちゃダメじゃない」と怒られる。最も印象的なシーン。

朝、部屋を出るステファン、共用廊下でステファニーが待っている「もう私と友達でいたくないのね?」「その通りだよ。どっちかが絶交すれば関係はそこまでだ」「それじゃデートっていうことで話し合いましょ」「どうせ他に恋人を作るつもりなんだろ。船はどうしたんだ?君は何事においても中途半端だ。ロフトも未完成だし」「私をコントロールする気なの?理解できない。これがゾーイの電話番号よ。あの手紙覚えてる?」「すまない。泣かないで。ごめん」。(この階段の上と下で話すカットは普通に見えて構図の本にもとり上げられているが、普通すぎて素人は気付かない。もちろん俺も気付かない)

会社、下ネタおじさん「いい加減にしろ。俺はお前の仕事をやってるんだぞ。お前は事実上クビだ。お袋さんもかばえない」「聞いてくれよ。彼女は僕が夢で書いた手紙を、なぜかいつの間にか読んでた。これは僕らの脳が何か複雑な方法でループ状に繋がってるからだ。僕と彼女は同じ方向に進化してるんだ。パラレルシンクロナイズドランダムネス。すごいことだろ。彼女にデートに誘われた。20分後にバーで会う。じゃぁね」「彼女と付き合うな。頭がいかれるぞ。とにかく社長と会え」「頼む、見逃してくれ、一度だけ」「じゃあもう一度だけ見逃してやる。だが最低でもキスはしろ。それができなきゃ絶交だからな」。走ってステファニーの元に向かうステファン。バーで待っているステファニー。

(妄想)「ステファニーと僕は、友達以上の関係にある」ステファンスタジオで同僚や母が過去の映像を使って、友達以上である事をプレゼンする「ちゃんとした証拠もあるぞ。ほら見て、僕の唇から、1センチ以内の場所にキスした。彼女が僕を求めてる確かな証拠だ。僕が動かなきゃ、唇にしてた」。
(現実)走るステファン。
(妄想)道でホームレスにぶつかりそうになる。よく見ると過去に夢でホームレスになった社長である。「お前への興味はとっくに無い。次の男を探してる。離れた心は二度と戻らない」バーには行かず道を引き返すステファン。バーではなく部屋で待っている妄想のステファニー。
(現実)ステファニー宅のドアを叩く。「居るのはわかってる。僕のことを忘れたのか?」ドアに体当たりするステファン。
あきらめてバーから出るステファニー。頭から血を流して共用廊下で泣くステファン。

(夢)ステファンスタジオのステファニーとステファン。「言ってよ。言ってくれなきゃダメ」「結婚しよう」「イエス」。

(現実)母に介抱してもらうステファン。「母さん、あのとき、父さんと一緒に出て行ってごめん」「いいのよ、空港まで行くわ」「メキシコに着いたら電話するから」完全に都落ちステファン。「彼女と会って話して」「話したくない」「さよならも言わずに居なくなるつもり?」荷物を置くステファン「いつまで経っても母さんの言いなりで情けないよ」ステファニー宅のドアをノックする。

出てくるメガネのステファニー「どうしたの?」「ここを出てく」「そうかと思ってた。まだ未解決な問題があるわよね。頭は?」「大丈夫。普通じゃないけど」「そうでしょうね。一生治らない」「だから君に嫌われた」「フランス語は?」「唯一言えるのは『君のオッパイで勃起する』」ステファンの口を押さえるステファニー。ステファニーの口のタバコを窓から投げ捨てるステファン「やめて、人が燃えちゃうわ」。アパートの下では通行人が火だるまに。「早く助けないと」蛇口からセロファンを出して洗面器に貯めるステファニー、窓から落とすと、通行人に水がかかって怒られる「アナーキー・イン・ザ・セロファン!」突然すごいDQNぶりのステファニー。
「僕が死んだら泣く?」最後だからか、ステファン暴走「メガネのつるを触って。ペニスを左手で触ったみたいだろ?歯を直す気はないの?僕が君と結婚する40年後に備えよう。でも歯はいいや。フェラの時に役立つ。一週間以上同じジーンズを履いて、汚れると君に近づいた気がするんだ」最低なことばかり言うステファン。
「なんて答えればいいの?」「別に何も。ロン毛のサーファーの新しい彼氏が居るんだろ」「彼氏は居ないわ。なんでいつも現実をねじ曲げるの?さぁ、お願いだから行ってちょうだい」「ロフト完成したんだ?船と一緒で完成しないと思ってた」ロフトに登るステファン「頑丈?カップルなら?」「やめてよ。お母さんを呼ぶわよ」「やめてくれ!」40年後に70になるので30歳の男女。
「私が何をした?私に何して欲しいのよ?!」「髪の毛なでてくれる?」「嫌よ。何で私?」「他のやつらはつまらない。君は特別だ。でも僕が嫌いなんだ」ベッドの上では船が完成している。一秒タイムマシンが発動、一秒後には寝ているステファン。呼びかけても反応が無いので、ロフトに上がり、寝ているステファンの髪をなでるステファニー。
(夢)馬に二人乗りして草原を走るステファンとステファニー。馬はゴールデン・ザ・ポニーボーイになる。ポニーボーイをフェルトの船に飛び乗らせ、一匹と二人でセロファンの川を渡る二人。

以上である。めちゃくちゃバッドエンドである。何も解決せず、他人に迷惑かけまくって、花の都から無法地帯へ帰国するだけの話である。

ストーリーを、主人公とヒロインの現実の恋愛にだけしぼると、
①ヒロインと出会うが、友人の方がタイプ。
②ヒロインといい感じになるも下ネタばかり言う。
③二人でモノ作りを始める。
④好かれているという勘違いから、ヒロインの方を好きになる。
⑤ラブレターを書くが、素直に書かない。回収するも、ヒロインは既読。
⑥立ち飲み屋で、ヒロインの前でバンギャと踊る。
⑦夢の勢いで告るもフラれる。
⑧不法侵入してばれる。
⑨ヒロインが男と話しているのを見て飲んだくれる。
⑩ヒロインは仲直りしようと提案するも拒否。しかし手紙を読んでいたことから超現実なものを感じ、一回会社へ行ってからバーで話し合うことに。
⑪ヒロインはバーで待つも、妄想のホームレスに阻まれた主人公はバーへ行くのをあきらめて、ヒロイン宅集合だったと自分を洗脳。約束をすっぽかす。
⑫最後の対面、最低の会話をして別れる。

この男かなり痛かった。タクシードライバーのトラビスより痛かった。ヒューマン・ネイチュアやエターナル・サンシャインでは、メンヘラもしくはバカキャラな女が多いので、その反動から、今作は『バカな男と大人の女』という構図になったのかもしれない。

以前今作を見たとき、主人公は何がしたいのか?全く物語の『ベクトル・方向性』が理解できず、単にゴンドリーが脚本がど下手なだけに思えた。そしてそういったレビューもよく、ネットで見かける。
主人公は「ヒロインに好かれたい」し「アーティストとして売れたい」はずなのに、女には嫌われることばかり言うし、職場の小さいことや女の言動に傷ついてばかりで、アーティスト的なことはしない。
妄想ばかりして、それを妄想と気付いてないから、妄想を現実に変えようという動きが無いので、話が進まない。『災害論』が売れたのも妄想だろう。
前二作を天才脚本家・チャーリー・カウフマンが書いたので、期待値が上がりすぎてつまらなく見えてしまったのもあるだろう。だが、今作はベクトルやストーリーを重視した映画ではない。それこそ、話より『見せ方』を重視したフランス映画である。小説では現せない、現してもつまらない、映像寄りの映画である。

再度見て思ったのが、これはオシャレに撮った『病気の紹介ビデオ』ではないかと。そして恥ずかしながら「これは一部俺だ!」と思ってしまったのであった。

主人公が『病気にかかっている』最も根拠となるセリフは、同僚の「統合失調症って言いたかったんだろ」である。その他、母親の「6つの頃から夢と現実の区別がつかないの」や、手紙が既読だったことから「僕らの脳は何か複雑な方法で、ループ状に繋がっている」と主人公が同僚に言ってしまう極端な考え、知るシーンは無いが病気を知っているらしきヒロインから「一生治らない」と言われるセリフなどである。

それらのセリフ通り、6歳の頃から『統合失調症』を抱えているが通院しておらず、病的KYの『アスペルガー症候群(=統合失調型パーソナリティ障害・以上以下全てWikipedia)』も入っていると思われる。

なぜ嫌われる下ネタばかり言うのか、それは『下ネタ アスペルガー症候群』で検索したのを読むとなんとなく掴めた。幼少期は下ネタがウケる。その刷り込みが大人になっても消えずに、相手のリアクションを考えずに下ネタばかり言ってしまう事もあるようだ。
また、主人公が持つ、仲良くなりすぎると仲良くなるのを避けようとする変な感覚、正直腹立たしい事にこれにめっちゃ共感できるのだが、これは検索しても病名など出てこない。ただ「こういう私は病気でしょうか?」という知恵袋的なページはある。

『統合失調症』と言うと幻聴・妄想・支離滅裂な会話・スパイに狙われている!というやつであるが、主人公はそこまでではなく、その中の『妄想性障害 恋愛妄想』であると思われる。
有名なのは先月逮捕された眞鍋かをりがストーカーされた事件、そして有吉のミザリーである。こういうのはスターストーカーで、一般人相手の話ではないが、ちょっと異性と話しただけ、目が合っただけなのに、相手と友達以上恋人未満ぐらいの関係にあると思い込み、ありもしない会話を捏造する妄想もあるようである。
主人公はありのままノーメイクで愛されたい、愛されると思っていた。だが愛してくんないので、自分を洗脳しては、好きとは別の感情が働いて、ヒロインの気持ちを考えずストーカー的に暴走したり、下ネタおじさんのセリフにもあるように、傷つきたくないから傷つけたりしていたと。

それ以上病気のことは全くわからないが、とりあえず主人公をカテゴリーに入れることで安心したいのである。

思い起こせば自分のツイッターで、若干そのケのある人が居て、その人は自分なんかよりも大分頭がいいと思うし、オシャレで男前で才能もあると思うが、俺のおもしろエピソードツイートに引っ張られた、明らかな嘘の、女との会話再現ツイートがあった。その嘘に気付いてからは、これまでの怪しいツイートはほとんど嘘なんじゃないかと。つまり誰でも、この症状が出てしまうと。
ただ、その人はけっこう長い期間小保方を信じていたので、ちょっとおかしいところはあるかもしれない。そして、俺が書いた元ツイートも『そういえばけっこう話盛っていた』というブーメランも返ってきた。

ゴンドリーの今作へのインタビューを載せたサイトがあるので、引用する。

「始まりは自分の夢。自分の夢は仕事のインスピレーションになっている。夢が現実だと錯覚してしまうこともある。そんな体験をステファンのキャラクター作りに活かした。実は今まで手がけてきたPVの多くは、自分の夢を映像化したもの。自分の実際の恋愛体験と、自分の夢の要素を混ぜ合わせた」
「ガエルを起用したのは、ドジだったり、涙を流したり、様々な顔があるから。問題は、ガエルを起用することで、『ミシェルは自分をガエルのようだと思っているんじゃないか?』と噂されるのではないかということ。ガエルは一緒に歩いていても、女性たちの視線が彼に釘付けになる。彼の魅力をあまり出さないようにしなければいけなかった」
「彼が母国語のスペイン語でなく、英語とフランス語で話すことによって、異国人的な雰囲気を作れるから起用した。私がニューヨークに住み始めたころ、ある女性と映画を見に行くことになったときに彼女が『デート』という言葉を使ったが、私が思っていたデートではなく、『日付』という意味のデートだった。言葉の壁は時に誤解を生むし、それによって関係が強くなることもある」

ゴンドリーはフランスからニューヨークにやってきた青年だったが、今作では逆転させて、主人公はフランスにやってきた。同じ状況を自分のホーム作りたかったのだろう。
そして主人公ガエルじゃなくて、ゴンドリーみたいな顔のヤツだったら誰が見るねんと心配した。

『災害論』は本当にヒットしたのか?ステファニーとの会話はどこまで妄想なのか?
この映画を愛せる人は、そういう虚実不明なところも『余韻』として残せるだろうが、ほとんどの人は「脚本下手か!」という印象で終了だろう。
俺も胸を張ってオススメする訳では無い。これを見るならエターナル・サンシャインを見た方がいい。
今作は「心の病になりかけている無自覚な人、こんな人にならないように気をつけましょうね」という絞られたターゲットにだけ向けて、作られているのかもしれない。

ヒロインのシャルロット・ゲンズブールは、前述の通りニンフォマニアックで主演を務めている。アメリカの雑誌エンターテイメントウィークリーは、今年のワースト映画にニンフォマニアックを選んだが、ニンフォマニアックでのシャルロットは、俺の心に今年一番重い漬物石を置いた。ヤリマンシャルロットと男に興味ないシャルロット、どちらとも付き合いたい。俺のこと好きなんだろ?