2014年2月26日水曜日

ロスト・ハイウェイ(1997)

世代ではないので当時の事は知らないが、日本でもツイン・ピークス(1990~)というドラマが、「24」(2001~)のように一般視聴者の間でもブームを起こしたらしい。
田舎の、街一番の人気者女子高生が撲殺された事件を主軸とし、薬、超常現象、近親相姦と、様々なヒントを拾って展開していくという、グロくて非常にわかりにくいドラマがヒットしたのは、牧歌的なのに不気味な雰囲気や、サブプロット(メインでないプロット)の面白さからだろうか。ツイン・ピークスとX-ファイル(1993~)を混ぜ合わせ、日本風ギャグを加えればケイゾク(1999)、トリック(2000〜)、SPEC(2010〜)の堤三部作となるだろう。やはりわかりにくくて不気味なものというのは、大衆を惹き付ける何かがあるようだ。圧倒的な技術力はもちろん、何を見せないか見極めるセンスが大事なように思う。
そして三部作といえば、デヴィッド・リンチ監督がツイン・ピークスの後に同様の手法で撮ったロスト・ハイウェイ(1997)、マルホランド・ドライブ(2001)、インランド・エンパイア(2006)の意味不明三部作である。
今作は特に、ブルーベルベット(1986)、そしてツイン・ピークスという田舎を舞台にした前作・前々作から、突如都会に舞台を移したので、デヴィッド・ボウイのテクノ風オペラをBGMにひたすら夜道を疾走するというオープニングからもわかる通り、非常にスタイリッシュで攻撃的になっている。そして収入は予算の五分の一という大赤字になった。

玄関先に家を盗撮されたビデオテープが続けて届き、嫁と共に怯えるミュージシャン。警察に届けるが、3本目のテープではミュージシャンが嫁を殺している映像が映っており、嫁殺しで逮捕される。だが死刑執行予定の監獄の中で、ミュージシャンはなぜか気のいい不良の自動車整備士のお兄さんに変わってしまい、しかたなく釈放される。彼はマフィアのボスの女に一目惚れ。だがその女は髪型以外ミュージシャンの嫁そっくり。
上記は前半のあらすじだが、全く意味がわからない。嫁が黒幕だとか白幕だとか、そんな次元の話ではない。ただしわからないながらも、何か面白いので普通に楽しめてしまう。そして悲しいことに楽しめてしまった人に勝手に解釈され、とんでもない映画がやってきたと祭り上げられる。蛇にピアスの作者・金原ひとみが、今作をベスト映画に挙げ「すべて必然性がある」と言っていたのは何を言ってるんですかこの人は、と思った。
だが蓋を開ければ、手品の種明かしのように、何だそんなことかと理解できる。金原ひとみも開けたのだろう。
リンチ映画の中でも最も有名で人気のある、マルホランド・ドライブの種明かしをしている本はいくつかあり、「時計じかけのハリウッド映画」「アカデミー賞を獲る脚本術」が詳しい。あえて説明すれば、構成を破綻させているのだ。①売れない女優の苦しい現実→②理想の自分の妄想→③自殺。この段取りを、②の妄想を120分見せた後、①③の現在の現実とその回想を混ぜた第二部が始まるので、理解できなくなる。何の説明もしてくんねー。フラッシュバック使えや!という不要な老婆心を抱かせる。②の妄想120分はTVドラマのパイロット版として単体で作ったものなので、そもそも妄想ということ自体がリンチの後付けなのだが。
今作ロスト・ハイウェイについては、映画.comで評論家の町山さんがデヴィッド・リンチにインタビューした事で、蓋が開いた。O・Jシンプソン事件という、日本では類を見ない、芸能スキャンダルが94年に起こった。O・Jシンプソンはアメフト選手出身の俳優で、最近シュワが「ターミネーター役が自分に来る前は彼が内定していた」と明かしたほど、それなりに芸能人として芸能界に居たようだ。赤井英和みたいなもんだろう。だがなんと、嫁を殺して警察とカーチェイスしてヘリで中継されながら逮捕され、そしてなぜか無罪になるという田代まさし以上の祭が開催された。
後にデヴィッド・リンチはTVにのほほんと出ているO・Jシンプソンを見て、何でこの人は妻殺しといてこんな余裕なん?と、あそうかこの人は別の人間が妻を殺したと思い込んでんだ、自分の中で自分とは違う別の人格を作っていたんだと、勝手に解釈したのである。シンプソンからすれば、どうしてそんなにおおきくなっちゃったんですかー?解釈。である。真面目にやってこなかったからである。
そしてそれを、ただの実際の事件をモデルにしたフィクションを、何の説明もせずにいきなり、同じ人物であるという設定の男が役名も役者も変わって出てきたりするから訳わからんくなる。でも楽しい。
ツイン・ピークスの前にブルーベルベットで見せて、今作以降は封印した、現実性の無い、登場人物の気持ち悪すぎる死に様、そしてマルホランド・ドライブにも通じる出自不明の登場人物のハッタリ、美しキモい悪女役のパトリシア・アークエットの存在感。この波に乗れるかどうかの簡単な選別方法として、この三部作とツイン・ピークスの源流である、ブルーベルベットの、更に源流になっている曲、「BOBBY VINTON-BLUE VELVET」をYouTubeで聞いてみることをオススメする。この曲の気持ち悪さに魅力を感じることが出来れば、後は快楽が待っている。ちなみにパトリシア・アークエットは、バッファロー66(1998)のビッチ同級生役やパルプ・フィクション(1994)のピアス女役を演じたロザンナ・アークエットの、実妹である。
訳わからんが魅力満載で、三作通して見ればデヴィッド・リンチ、そして映像表現の魅力に気付くだろう。見た後のネットの解説検索は必須だし、読むのに本編ぐらい時間がかかるかもしれないが。


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