2014年2月19日水曜日

Happy Science

その映像は大雨や雷以前に、俺と中野くんのテンパリ加減がパなく、「カメラ濡れっから!」とか「もっかいお願いしまーす!」とか「え何がダメなん!?」といったような、怒号やただの合図が飛び交っていた。中野くんが監督して頓挫させた映画で、唯一手元に残された映像である。
無関係の知人たちにこの映像を見せると、これ自体を一つのビデオアートとして捉え、知り合い補正もだいぶあるだろうが今までに無いほど笑いをとれるのであって、調布映画祭の為に撮る企画に、この声はそのまま採用されるべき、とのご意見が多数あり、俺と中野くんが役者として出演し、そのまま映像を撮影している人たちの物語として撮ることに相成った。
宗教団体である幸福の科学のプロパガンダアニメ映画・仏陀再誕、その予告編の「我、再誕す」というセリフも自分達の中で流行っており、これも取り入れることになった。
大雑把な案を私のゴーストに伝えたところ、やはり私のゴーストライターは天才である。『大雨』と『役者がいる緊張感の中テンパる人たち』と『仏陀再誕』。この要素だけで、富井はこれを生かしきったシナリオをひりだしたのである。それを要約する。

1.日本が干ばつ被害で水不足になっており、海外から水を輸入している世界観。
2.それにより幸福の科学のような団体・ブッダ教が駅前などで頻繁に「ブッダが再誕して救ってくれる」と演説している。中野はその宗教の家系だが、まわりには隠している。
3.中野と、専門学校の後輩の土井はミュージックビデオを制作する業界に居るが、中野はフリーターに甘んじている。土井が現場のバイトを誘っても断る。
4.中野はよく運動をしに行く公園で、過去憧れていたミュージシャン・戸野と知り合い、なぜか好かれ、低予算ミュージックビデオの監督を任される。ミュージシャンはハイ・スタンダードの難波がモデル。
5.中野は土井と、専門時代ちょっと好きだった女・鳥羽を巻き込み、戸野のPVを制作することにする。戸野は自分たちの世代の憧れのアーティストであり、皆興奮するが、中野の準備不足のせいで全くうまくいかない。
6.彼らは空中分解しかけるが、中野が皆の前で、必ずいい作品を作ると演説する。ブッダ教の家系であることも告白するが、誰も軽蔑せずに受け入れてくれる。戸野も同調、また仲直りして撮影再開、鳥羽ともいい感じになり幸せの状態になる。
7.改めて撮影を始めたタイミングでブッダが「我、再誕す」と人々の心に現れ、干ばつの日本に大雨を降らせてくれる。例の映像ここで使う。
8.雨と雷とテンパりのせいで結局撮れない。一転してあれだけ協力的だった戸野がキレる。全員キレて帰宅する。
9.絶望した中野は悪魔のメイクをして全員を殺し、性的にいたずらもする。
10.この、近年稀に見る残虐な殺人事件と、犯人の信仰が関係しているのではないかと、ブッダ教は批判されるが、この事件は中野個人が起こした事件であり、ブッダ教は関係ないという説明が入る。今までの映像はブッダ教の勧誘ビデオだった。

以上である。役名中野と土井はリアル中野土井とほぼ同じ立場であり、富井は逆に創価2世であり、中野くんはそれ故にハイスタやダークナイトに憧れており、しかり中野くんは熱いイケ面に好かれやすいのであり、それらがシナリオに反映されいる。
中野が好きになる鳥羽役は、マンキツの同僚の女優・鳥羽さんであて書きしていて、舞台等で忙しいらしいがOKいただいた。
そして実際の豪雨映像に出ている吉岡さん。この人が出ないと意味が無い。吉岡さんに「あの映像を眠らせたくない」「教団を糾弾したい」と、根も葉もない誘い文句をメールし、「教団に目をつけられなければいいね」と、OK頂いた。見るわけねーだろばか、とは思わず、まずは簡単なところから撮影しようと、俺と中野くんと富井で、俺と中野くんしか出演しないシーンから撮り始めることにした。
その撮影日前日のタイミングで、突然どしたお前雰囲気悪なるやろお前やめろお前と、思うかもしれないが、うちの父親がクモ膜下出血になったのである。結果的には後遺症も残らず存命しているが、その時は命危ないかもしれんと、俺は弾丸的に実家に帰ったのである。
親戚一同も病院に到着しており、俺がその輪に加わると皆口々に、しょうごや、しょうごがきた、ようきたなしょうごと、不安を掻き消すように俺の歓迎を始めた。そして二時間も経たぬ間に、父は死なないことが確定した。母が看護師だったのですぐ症状に気付き、助かった。ベタな展開に皆で胸を撫で下ろし、忙しい母の妹などはすぐに帰宅することになった。
叔母に便乗し、もちろん俺も帰京しようとしたところ、親戚一同から猛反発を食らった。「母が病院で父に付きっ切りになるんじゃから、おばあちゃんが家で一人で不安じゃろ、一緒に家におれ」という理論である。
がしかしである。自分は芸能という親の死に目を見れない職種を目指してやってきたのここ東京に、という身である。顔をゆがませる一同を用事が、あるから、と切り捨て、駅に向かったのである。親戚に嫌われるということは友人恋人に嫌われるのとレベルが違い、死ぬまで疎外感を感じるかもしれない。がしかしである。私は監督である以上自己都合で延期させるわけにはいかんのだ。と、駅に向かい、東京へ帰り準備を済ませ翌日、綾瀬一軒家に向かった。綾瀬には誰も居なかった。富井はすぐに撮影場所であるこの自宅に戻って来たが、出演者の中野くんは現れない。携帯も通じない。そのまま夜になり、日光は消え、撮影はできなくなった。いわゆるゴールデンタイムに、中野くんは戻ってきた。
聞いてみたところ中野くんは、自分が壊した永山の車のヘコみを直しに、撮影日に一日中カーコンビニ倶楽部に行っていたのだ。俺もこれから親戚一同に嫌われる人生を、ヘコみや傷を、親への自責や負い目を、カーコンビニ倶楽部で直そうと、すぐにケータイをパカったのである。


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